日本の労働環境 日本企業の病その3

今回は、「自分で仕事を見つけろ」「自分で考えて動け」病について書きたい。

自ら考え判断して動くことが正しいと思っている人が非常に多い。多くの場合、それは単なるマネジメントの放棄である。本来は、前提条件が整った上で「自分で考えて動く」ことが正しいのである。
例えば、「目的の徹底的な周知」「求める成果物の品質」「期限」「委譲する権限の範囲」などを明確に指示している場合だ。しかし、現実はそのような前提条件など無視して、自分で考えて動くことを求めているのである。

自分で勝手に考えて行動するとどのようになるか。その一つに、不要な仕事が生み出されることがある。「仕事をしている」と自分自身で思い込むため、周囲にアピールするため、色んな理由があるだろう。
誰かの仕事を作り出すための、無駄な仕事がどれほど多いことか。社内資料でも、必要も無いのに「今まで作っていたから」という理由だけで作り続けているものも多い。当初から「必要ではないけれど」「あれば何かの役に立つかも」で誰かが作り始めたような資料もある。
実際、数人程度の課で月間200時間以上の残業をしていたが、不要な資料作成をやめるなどの業務見直しで、月間の残業時間が30時間以下になったこともある。数人程度でこうなのだから、全社レベルで考えると恐ろしいことになりそうだ。しかもこれは課の中で閉じた業務だけの見直しであり、他の部門との連携業務の見直しには着手していない。全体最適に本気で取り組めば、どれほどの効果が生まれるだろうか。
ここで少しだけ話が変わるが、無駄な仕事について思い出したことがある。
人事部主催研修で外部講師が、生産性を上げるにはどうするかについて話をしたことがある。その外部講師曰く、「普通の人は無駄な仕事をやめる等の業務見直しをするだろうが自分は違う。倍のスピードで仕事をする。」と語っていた。
そのとき、なんというアホなのだろうと思った。業務を見直した上で倍のスピードにすれば生産性はもっと上がるだろうに。また、標準化できるものは標準化し、他の人でも出来るようにすることも大事な仕事。つまり、標準化にあたっては無駄な仕事をなくすことも大事なのだ。

話を戻そう。不要な仕事も問題だが、それ以上に害悪なのが「目的に合わない」仕事をしてしまうこと。各自が別の方向を向いて仕事をするのだ。これでは効果を生み出せるわけがない。

「目的に合わない」例として、太平洋戦争でのミッドウェー作戦について少しだけ紹介する。詳しくは「失敗の本質 -日本軍の組織論的研究-」(中央公論新社)を読んでいただきたい。
失敗の要因としては米軍に暗号が解読されていたということもあるが、作戦目的が周知徹底されていなかったことが大きい。
山本司令長官の作戦目的はミッドウェーを攻撃することによって米空母を誘い出して撃滅することであった。ミッドウェー攻略自体が目的ではなかったのである。しかし、この作戦目的が周知徹底されなかったので作戦遂行が企図したとおりにならなかった。「ミッドウェーを攻略」「攻略時に出撃する敵艦隊を撃滅」というあいまいな作戦目的を示した山本司令長官にも大きな責任がある。作戦に二重の目的が含まれてしまっているため、どちらの目的に向かうのか、はっきりしていないのだ。
一方、米軍側の司令官は戦力面で不利なことを認識しており、一時的にミッドウェーを手放すことになっても空母の保全を重視していた。攻撃部隊にも「空母以外に攻撃を繰り返すな」と繰り返し注意していたようだ。
現実にどちらが勝利するかは、どちらが先に敵を発見するか等、運の要素もある。ただ、作戦目的が周知徹底されていない軍と、周知徹底された軍。どちらが勝利に近づくだろうか。
同書ではミッドウェー以外の作戦についても組織の側面から失敗の要因が書かれていて大変面白い。現代の日本的組織にも共通する部分が大いにあるので、興味のある方はぜひ読んでいただければと思う。

きちんとマネジメント出来ない人ほど、自分で判断して動くことが正しいと思っているようだ。