日本の労働環境 どうすべきなのか その9

終身雇用という制度は、従業員を守るものではなく、従業員を会社に縛り付けるものになっているのではないか。表側では従業員に安定を与えるのであるが、その裏側では安定と引き換えに会社に隷属するしかないという状況を引き起こしている。
数十年前にはつぶれるなど想像もしていなかった会社がなくなっていることを目にしているので、どれほど安定しているように思える会社でも定年まで働けるとは限らない、ということは多くの人が理解しているだろう。会社もなくなることがある状況では、終身雇用はメリットよりデメリットのほうが大きく思える。


人材の流動性が低い状況では、会社がなくなってしまうと中高年は再就職も難しいだろう。それゆえ、中高年は会社の存続を優先した判断を行う。自分が退職するまでの期間、その間だけでも会社が存続していればいい。半分死に体のような、ゾンビ企業のような状態であっても、会社が残っていなければ困る。言い換えると、自分が退職した後に会社が行き詰ろうと、つぶれてしまおうと構わないわけだ。転職が難しい年齢まで達した後は、会社の将来など二の次となる。ここでは「会社」という書き方をしているが、「会社内の部門」に置き換えてもいい。その部門がなくなってしまうと考えると、自分の身の振り方が不安になるだろう。どれほど役に立たない仕事だったとしても、「忙しそうに」「重要な業務」「将来性のある部門」であるかのように振舞うことが自分の身を守ることに繋がるのだ。


もしも中高年の転職もハードルが低ければ、会社や部門がなくなってしまうことに対して過度に恐れることもない。ゾンビ企業などはつぶしてしまって、人材が他の会社に移る方が社会全体から考えてもメリットになる。斜陽産業から、これから伸びていく産業への人材配置が自然と行われるだろう。
社会全体で人材の再配置がうまく回るようになれば、外国人労働者を受け入れる必要もなくなる。国内には、活躍していない労働力が有り余っているのだから。ただ、社内にいる「適性のない仕事をしている人」が転職することを簡単に選択するだろうか、という問題がある。特に、給与の高い会社であればあるほど、どれほど適性のない仕事をしていようと、会社にしがみつこうとするだろう。転職が当たり前になった後であればともかく、それまでは、半ば強制的に転職を促すために解雇もやむを得ないと考える。適性を考えない配属をした人事や、成果を評価できない上司、それらの評価の結果として解雇されるというのは理不尽だとも思うけれど。

繰り返すが、終身雇用は労働者側の味方ではない。今となっては、労働者側にとってデメリットが大きく、社会全体から見ても決してよい制度とはいえない。もし終身雇用がよい制度だと思っているのであれば、その人は、その会社でしかやっていけないことを自覚しているのかもしれない。